ギャンブル依存症(病的賭博・ギャンブル障害)1

我が国でギャンブルと呼ばれているものは、何があるのだろう。思いつくまま挙げてみると、パチンコ、スロット、競馬、競輪、競艇、オートレース、かけマージャン、花札賭博、トランプ賭博、さいころ賭博、スポーツ賭博、ゲームセンターでのゲーム、宝くじ、 ロト、ナンバーズ、スクラッチ、インターネット賭博、カジノ、FXへの投資、証券の信 用取引、先物取引市場への投資などがある。違法なギャンブルを除いて、余暇に、娯楽として楽しんでいるのなら別であるが、様々な問題が生じているにもかかわらず、ギャンブルを続けているのであれば、娯楽とは言えない。不健全な行動、すなわち病気としかいいようがないと判断する。世界保健機関(WHO)の国際疾病分類の10版(ICD-1. 0)では病的賭博として診断ガイドラインを定めている。また、米国精神医学会の精神疾患の分類と診断の手引5版(DSM-5)ではギャンブル障害として診断基準を定めている。

ICD-10の病的賭博の診断ガイドライン
(a) 持続的に繰り返される賭博
(b) 貧困になる、家族関係が損なわれる、そして個人的生活が崩壊するなどの、不利な社会的結果を招くにもかかわらず、持続し、しばしば増強する。

DSM-5の診断基準
(1) 掛け金が増えていく
(2) ギャンブルをやめたりするとイライラする
(3) やめようとしても失敗する
(4) ギャンブルをいつも考えしまう
(5) 辛い気分の時にギャンブルする
(6) 失った金を別の日に取り戻そうとする
(7) ギャンブルにのめり込んでいることを隠すために嘘をつく
(8) ギャンブルのために人間関係、仕事、学業などを機牲にする
(9) 他人の金に頼る
8~9項目当てはまると、重症、6~7項目で中等症、4~5項目で軽症。

頻度はどうなのであろう。結論を先に示すと、我が国は世界に名だたるギャンブル大国です。2014年の厚生労働省の調査によるとギャンブル依存症の有病率は、男性8. 7%、女性1.8%、全体で4.8%(536万人)でした。アメリカが0.42%、イギリスが0.50%、香港が2.20%、マカオが1.80%。シンガポールが2.1 0%でありわが国のギャンブル依存症の有病率の高さは群を抜いている(厚労省はこの結 果をひた隠しにしている)。そして、遅まきながら、対策を立てるために、本年度になってからギャンブル依存症の合併症や治療法についての調査をやっと始めている。

ギャンブル依存症の最も顕著な症状は借金と嘘である。また家族関係は混乱し破綻することも珍しいことではない。手元に少額のお金があれば(筆者の治療経験では500円でも)、ギャンブルをして何倍にでもできるという妄想的確信といえるような思考のもとギャンブルをする(お金=ギャンブル)。ギャンブルをすることが習慣となっているのであ.
る(病的習慣=嗜癖)。仕事よりギャンブルを優先し、仕事での信用を失うどころか、失職することもある。中にはホームレスとなることもある。生活保護受給者がパチンコにのめり込んでいることは珍しいことではない(彼らの生活保護を停止せよという声があったが、必要なのは治療であることは論を待たない)。学生の場合は、留年あるいは退学となることもある。多額の借金のため家族が肩代わりすると直ちにギャンブルを再開し、家族の貯金がなくなるまで肩代わりは続く。肩代わりしないと、家族や親族が悪いと攻撃してくることもある。子どもが進学をあきらめざるを得ないこともある(子供の将来・人生に 影響を及ぼす)。何度も裏切られた家族は何もかも信用できなくなり、混乱する。言葉が言葉としての機能を失ってしまうのである。バーンアウトし、家族関係が破綻することも珍しくない。
治療は、精神療法・集団療法が主となる。ギャンブルをとめ、思考、感情、行動、家族 関係を含めた人間関係を健康なものすることが目的となる。仕事を優先することは、有効 ではなく、お金=ギャンブルという思考のままでは、給料が入るとまたギャンブルをするだけである。治療を優先するべきである(覚せい剤依存症者が、お金=覚せい剤という思考のもとお金があると覚せい剤を入手し使用するのと全く同じである)。説教、説得、約束などで、ギャンブルが止められることはなく、全く意味がない(アルコール依存症者の飲酒や薬物依存症者の薬物使用が、説教、説得、約束などでやまらないのと同じである)。ギャンブルを止めることを約束させ、その約束を守れず、再びギャンブルをしてし まった場合、離婚にもっていく治療機関があると聞いているが、疾病特性を理解していな い判断である。ギャンブルからはなれ、安定した生活を取り戻すのに、少なくとも3年は必要という印象がある。残りの人生をかけてギャンブルと縁のない生活を取り戻すという考えがあり、その場合は一生涯かかることとなる。いずれにせよ、薄紙をはぐようにしかよくならない。家族関係の再構築も目標の一つであるが、やはり時間は必要で、言葉が言葉としての機能を取り戻し、信頼関係を取り戻すには少なくも3年は必要である。ギャンブラーズ・アノニマス(GA)という自助グループも有効である。
法的規制も重要であるが、有効な手立てがされていないのが現実である。パチンコ・スロットは遊技とされ行政はギャンブルとは認めていない。また、統括する機関は、パチン コ・スロット一警察、競馬一農水省、競艇一国交省、競輪・オートレース一経産省、宝くじ一総務省、スポーツくじ一文科省とバラバラであり、一貫したギャンブルに対する施策 はとられていない。カジノはどうなるのであろうか。