第5回目ー後編

前回に引き続いて、からだほぐしの話になります。今回はデイケアで実際に行っている内容になります。実際にやってみると、体がだんだんと軽くなったり、やわらかくなる感じがします。自分で出来そうなことを取り入れると、日々の生活の中で意外緊張して体に力が入っていることに気が付き、リラックスを意識するようになったりするので、やってもいいなと思う動作を取り入れることはお勧めです。

デイケアのプログラム紹介『からだほぐし』

 デイケアの『からだほぐし』では、①「からだゆらし」と②(Ⅰ:一人体操・Ⅱ:朗読」)の二種類を別日に行っています。

 どちらを行う時も、「息を入れて、止めて、吐いて〜」の言葉に合わせて、深い呼吸を何度も行います。

①「からだゆらし」です。これは、二人一組で行います。

 ペアを組んだスタッフが仰向けに寝ているデイケアメンバーの手を取って、メンバーの体に波を起こすように、身体をゆらしていきます。そうすると、固まった身体が徐々にゆるんでいきます。交代で行ったり、他のデイケアメンバーをゆらしていきます。

②「Ⅰ:一人体操」と「Ⅱ:物語の朗読」です。

    前半は「Ⅰ:一人体操」を行います。はじめに、深い呼吸(おへそから指一本分下あたりを膨らませるように呼吸をします)を行い、スワイショウ(両腕を前後に振る、左右に振り回す)をします。これはどこでも何歳になっても手軽に行える健康体操です。

  それから、スクワットを7〜10回程度行います。骨盤を前傾させながら、膝を曲げ伸ばしします。衰えやすい脚力をアップさせることができる運動です。

 その次は動的ストレッチをします。片足を前後左右に振って、股関節を動かしたり、膝を曲げ上体を傾け、胸を開いて肩甲骨を動かしたりします。 

 次は、しゃがむ動作と顔を天井と平行にする動作です。ゆがみのチェックと修正ができます。

このあとは座ったり寝転んだりした状態で身体を動かしていきます。

まず、座って足を前に出して「骨盤歩き」をします。座ったままで骨盤を動かすと、肩甲骨の動きもより促されます。これは手軽に胴体の動かせるお勧めの運動の一つです。

 次は足首をまわし、足の指一本ずつ前後左右に動かしたあと、足の裏 を押し揉みます。

手足の凝りが腰痛を引き起こすことは少なくありません。身体全体を動かすことが難しい日でも、末端を動かしながら身体を調整できる運動です。

 次は仰向けに寝転んで、「膝立倒し」をします。股関節を動かしながら、仙骨を刺激し、身体の中もゆすられてゆるんでいきます。この運動は布団の中でも行うことができるお勧めの体操です。

 一つの運動が終わると、寝転んだまま、深く息を吐き、余分な力が抜けた身体を大地に預けて安らぎます。

(休んでいる間に、ぺアゆらしで行う「ねにょろ」をスタッフが行って、さらに身体をゆるめることもあります。)

 次は、「体側伸ばし」です。寝転んだまま、片手を頭のてっぺんの方に伸ばし、反対の手を足のほうに伸ばします。それと同時に、片方の(かかと)を押し出して、手と足で引っ張り合います。伸ばし切ったところで、合図に合わせて、一気に脱力してゆがみを整えます。

 次に、「合唱合蹠(ごうしょ)」をします。両手を胸の前で押し合うようにし、指先を上や下に向けていきます。同時に、足の裏を合わせ、足の裏が離れない程度に、膝を曲げ伸ばしします。両手両足の合わさったところが身体の真ん中を通るようにして、左右のバランスを調整します。

 最後は、手と足を天井の方にあげて、小さく振ります。手足の末端をゆすって血流を促します。これらの運動や体操の良い点は、ゆがみのない身体で筋肉を動かし、血流が促されることです。

 月に一・二度、30分程度、体操法で骨格を動かして整えたり、ストレッチで筋肉を伸ばして、柔軟性を高めたり関節可動域を広げたり、また、自分の身体の重さを使った筋トレをしたりすれば、身体を動かしやすくなります。歩きやすくなったり、手を上げやすくなったり、身体を捻りやすくなったりすることで、日常生活の活動がやりやすくなることもありますし、心理的緊張が解け、リラックスすることもできます。(体操は参加者の方の体調に応じて変わることがあります)

 運動は、頑張ることなく、息を吐きながら力が抜けた状態で行っていくと、楽しみながら続けることができます。

 後半は、「Ⅱ:朗読」です。ここでは物語の中の役になってセリフを読みます。

 昔話などの物語では、日常生活ではありえないことが次々、展開されていきます。苦難の中でも、智慧(ちえ)を得たり希望の光を見出したりするシーンでは、くりかえし失敗しても何度でもやり直せることや思いがけない助けや逆転があることを示してくれています。

 また、声を出して語ることで、黙読とは異なった体験ができます。実際に声に出して物語の中のことばを語っていると、その役の立場や経験を体験できたりしますし、気持ちを発散できて、スッキリします。

 読み終わったら、みなさんと一緒に感想をシェアして、『からだほぐし』の時間を終了します。

 このようなプログラムに参加してもらい、デイケアメンバーをはじめスタッフも自分自身のからだに目を向け、今の自分の状態に気付くという体験を繰り返しています。普段いかに無意識に力が入ってしまっているのかにも気づくことがあります。それらを深い呼吸などを使って緩めていきます。

「ふれる背中とふれられる手」― わたしとあなた、じかの出会い

  デイケアの「からだゆらし」の時間では、二人一組のペアになって、からだをゆらします(スタッフがゆらします)。ゆらされている人は、仰向けに寝ます。そして、自分のからだがどのように感じているかを言葉にします。そこでは、自分の身体に余分な力が入っていることに気づくことから始まります。力みは他者への身構えであり、固定化された動きは行動をパターン化したり不自由にしたりします。思考も行動も一つの習慣のレールを進んでしまい、自らの力では、そこから抜け出すことが困難です。 ゆらされる人はからだを大地に預けることだけをします。手首を持ち上げられ、ゆすられながら、力みに気づくうちに、ゆるみ始まります。余分な力が抜け、思い込みやとらわれが外れていく瞬間です。ここから解放が始まり、関わりに変化が起こり始めます。

 一枚の皮袋に水がいっぱいつまっていて、この中に骨や内臓がぷかぷか浮かんでいるからだ。ゆらす人が起こした波はゆらされる人のからだを通って、ゆらす人に戻ってきます。ゆらす人はその波を受けとり、相手のからだに新しい波を起こしていきます。

 この波が両者の体を行き交う時、ゆらす人とゆらされる人は一波ごとに変わり続け、ついには両者が波とともに1つになります。「息を入れて、止めて、吐いて」を繰り返していく中で、力み一つ一つが解放され、深いやすらぎを感じていきます。ゆらす人もゆらされる人も、からだが「あたたまって」きた感じがひろがってきます。

  最後に行う「背中の手当て」。ゆらした人は、ゆらされる人の肩に手をやり、背中のでこぼこしたところや温かいところをていねいにふれていきます。腰まで行ったら、気になるところで手を止めます。そしてゆらしている人は肘をゆるめて近づき、ゆらされた人の息に自分の息を合わせます。二人の息は一つになり、自他を超えて、いのちが満たされ、抱き取られた時には充足感と安堵感でいっぱいになります。

  ゆらしを通して、わたしとあなたが一つとなり、そして、またそれぞれに戻っていきます。その時のからだは新しくなっており、時に、大きな目覚めを伴うこともあります。過去に、ペアゆらし終了後、歩けなかった人が一人で歩き出したということがありました。まさに、「わたしとあなたのじかの出会い」が引き起こしたものであったことでしょう。

  これは、ゆらす人のからだへのまなざしの深さとゆらされる人のからだの準備(時機)によるとも言えます。

 ブーバーのことばに、「すべての真の生とは出会いである」とあるように、ペアゆらしの中で起きるじかの出会いは、やすらぎを伴った自己との和解の始まりであり、(新たな習慣のレールが構築されるであろう)自己変革(治癒)に向かう第一歩となることでしょう。