一般医と精神科医の連携、自助グループについて

―外来でのアルコール問題―プライマリ・ケアで遭遇するアルコール問題を抱えた患者の診かたー

一般医と精神科医の連携、自助グループについて

西山 仁
西山クリニック

はじめに

 大量飲酒、精神障害、身体・内臓障害、生活障害をもたらす。アルコールよる精神障害は、アルコール依存症やアルコール乱用がある。アルコールによる身体・内臓障害の特徴は多臓器的で全身的であることである。それらは、大脳萎縮・ウェルニッケ・コルサコフ症候群・小脳変性症・慢性硬膜下血腫・脂肪肝・アルコール性肝炎・肝硬変・急性膵炎・食道静脈瘤・マロリーワイス症候群・急性胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・下痢・吸収不良・末梢神経炎・ミオパチー・骨粗鬆症・大腿骨頭壊死・心筋症・不整脈・鉄欠乏性貧血・大球性貧血・血小板減少・内分泌異常・発がん・胎児性アルコール症候群・高尿酸血症・痛風・高血圧・骨折などの怪我など枚挙にいとまがない。アルコール依存症者を含む大量飲酒者が最初に飲酒問題を訴えて精神科を受診することはないかと思われ、さまざまな身体的不調を訴えて一般医を受診することがほとんどであろう。

1.内科や一般科における対応

 一般医で身体的不調の背後に飲酒問題があると窺えられるとき、問題飲酒者あるいはアルコール依存症者に対して、ただちに飲酒問題を指摘することは、よい結果をもたらすことはないと思われる。それは、「否認」という問題が存在するからである。

 診察の際、酩酊あるいは泥酔状態でなければ、丁寧に診察をし、離脱症状(手指振戦ないし全身の振戦の有無、発汗の有無、睡眠状態の確認など)の出現について確認し、また血液検査など必要な検査をする。また、さりげなく飲酒量・飲酒の種類・飲酒パターン・酩酊の仕方などを確認し、以前の飲酒量・飲酒の種類・飲酒のパターンも確認する。離脱症状が存在すれば、すでにアルコールの身体依存が形成されていることを意味し、アルコール依存症と診断でき、以前より少ない量しか飲めなくなっていたり、強くて安いアルコールを飲むようになっていたり、飲みだすと飲酒を止められず泥酔してしまうのであれば、飲酒に対するコントロールの喪失を意味し、アルコール依存症と診断できる。また、酩酊時の記憶の脱落(ブラックアウト)は、アルコール依存症の初期の症状と言われている。検査結果も踏まえ、飲酒をやめるように説明すれば、その忠告や指示に従うことも珍しいことではないように思える。また、断酒するに至らず、節酒しながら、定期的に受診をする患者に対しては、血液検査の結果を示しながら、全身状態の把握に努め、飲酒問題を確認していくなかで自分の飲酒問題を自覚し、断酒しようとする者も少なからずいる。しかし、断酒した結果、肝機能が改善したり、全身状態が改善すると、飲酒を再開する場合があり、このようなことを繰り返す場合には、アルコール依存症を治療する精神科医療機関へ紹介する必要がある。また、断酒を開始したが、些細なことで飲酒を再開し、退院を中断してしまった場合も同様である。飲酒の再開は、断酒を開始して1カ月後、3カ月後、6カ月後に多いと言われており、この時期の前後は注意が必要となる。また、飲酒の再開に際しては、感情的になって叱責するのではなく、飲酒問題があるということの確認となり、冷静に対処することが治療上重要である。

 一般医を受診した際、酩酊状態や泥酔状態であった場合は、診察には協力的ではないため、トラブルを引き起こすことにもなる、このような場合も、アルコール依存症を治療する精神科医療機関への紹介が必要となるが、家族や家族に代わる機関(保健所や福祉事務所など)の協力が重要である。しかし、必ずしも家族などの協力が得られず、酩酊あるいは泥酔状態で受診を繰り返す場合があるであろう。ポイントとしては、酩酊や泥酔で受診を繰り返す中で、素面で受診をするときがあり、そのときの対応が大切となる。素面で受診したことを過大に評価するのである。素面で受診したから、話が通じるであろうと、酩酊や泥酔で受診したことを批判・非難しないのである。せっかく酩酊せず、素面で受診したにもかかわらず、叱責されるのであれば、酩酊して受診したほうがましだと、考えるのではないだろうか。また、酩酊あるいは泥酔して受診したときのことは、おそらくブラックアウトのため記憶がないと思われるのである。素面で受診したことを、過大に評価し、丁寧に診察することが、次からの受診に有益になると思われる、そして、時間をかけて、問題飲酒の指摘が可能となるような関係を構築していくのである。

 アルコールを飲むと暴れるという酒乱タイプの人がいる。アルコール依存症であって酒乱タイプの人、アルコール依存症ではないが酒乱タイプの人がいる。いずれにせよ、一般科では対応は困難と思われ、アルコール依存症を治療する精神科医療機関への紹介が必要である。また、アルコール離脱症状のなかでもっともはげしい精神症状が出現する離脱せん妄の状態にある場合、全身状態が重篤でなければ、精神科病院の転入院が必要あろう(筆者の経験であるが、離脱せん妄状態の患者を入院とせず、離脱せん妄から脱するまで毎日約一週間通院したことがあった)。

 一般科では、アルコールに起因する臓器障害を治療するわけであるが、それだけでは単に「飲める体にする」だけにすぎないということを、常に念頭に置いて、治療に当たる必要がある。どのタイミングで、断酒を目的として、アルコール依存症を治療する精神科医療機関へ紹介すべきかを考えていく必要がある。

 アルコール依存症は多くの偏見と誤解がまとわりついている。「怠け者」、「だらしがない」、「朝から飲酒して仕事をしない」、「一日中飲んでいる」など、このような偏見や誤解が残念なことであるが、一般科にはもちろん、精神科にもある。アルコール依存症が依存形成作用をもつアルコールという薬物を摂取することによって生じる疾患であることを周知し、誤解・偏見を取り去ることが、アルコール依存症の治療上で必要なことである。なお、アルコール依存症者の多くの飲酒は、アルコールが好きというよりはむしろ離脱症状の軽減あるいは回避を目的とした、いわば病的飲酒である。また、アルコール依存症者は、飲み続けているというよりは、何度も飲酒をやめているのであって、やめ続けることができないのである。

2.精神科との連携

 これまで述べたように、飲酒問題あるいはアルコール依存症者に対処するには、一般医では困難な場合が多く、精神科医療機関との連携が必要となる。しかし、アルコール依存症の治療プログラムをもっている精神科医療機関は数が多いというわけではない。一般科への精神科医療機関の情報提供や、また、精神科医療機関における処遇や治療についての情報提供も必要である。また、一般科医から精神科医への診療情報提供書だけの紹介ではなく、一度でいいから顔を合わせる機会があれば、紹介がスムーズにいくと思うのだが、互いに多忙であるのでそのような時間を取ることが難しいのがネックである。

 精神科医療に限られることではないが、治療形態には通院治療と入院治療がある。アルコール依存症の場合、入院したから特別な薬があるわけではない。通院治療と入院治療の大きな違いは、日常生活をどこで送るかである。日常生活を家庭で送るのが通院治療、日常生活を病院で送るのが入院治療である。併発している臓器障害の程度によって、通院治療とするか、入院治療とするか、選択することになる。筆者は無床の精神科クリニックで診療にあたっているが、入院治療を勧める判断は、①併発している臓器障害が重篤である場合、②何としても飲酒が止まらない場合、③通院の経路を覚えられず通院ができない、あるいは通院しない場合である。もちろん、本人が精神科病院への入院を積極的に希望するときは、精神科病院へ紹介している。

 精神科病院への入院は、精神保健福祉法によって規定されている。精神科病院への入院形態には、任意入院と医療保護入院(他に、応急入院・措置入院・緊急措置入院があるがここでは説明は省く)がある。本人の希望による入院が任意入院である。本人が入院を希望しないが、家族等が入院を希望し精神保健指定医が入院の必要性を認めた場合の入院が医療保護入院である。家族が飲酒問題に困っているからという理由で、飲酒問題をもっている人が精神科病院に入院となるわけではない。「そんなに家族が困っているなら精神科病院に

入院させてもらいなさいと内科で言われた」と家族が相談に来て、対処に困惑した経験をしたことがあるのは、筆者だけではないであろう。アルコール依存症治療プログラムを有する精神科病院に入院し、退院後断酒を継続する場合もあるが、再飲酒をすることもある。アルコール依存症治療プログラムが万能というわけではないこと、退院後も断酒を継続していくには通院治療が必要であることなどをあらかじめ本人や家族に説明しておくことが必要である。また、アルコール依存症治療プログラムを有しない精神科病院に入院して、退院後断酒生活に踏み出す場合があり、アルコール依存症の治療の難しさがある。精神科病院に医療保護入院しアルコールが手に入らない環境に身を置いて、素面で自分の飲酒について考えることに意味がないわけではないと思う。しかし、精神科病院に入院して飲めない環境で生活することだけで、飲まない生活に結びつくことではないことも事実である。

 アルコール依存症者には飲酒問題と飲酒以外の問題がある。したがってアルコール依存症者への治療目標はまずは断酒の開始と継続であるが、飲酒時代の考え方や感情への対処や行動パターンを変えること、人間関係の改善、家族関係の改善なども目標である。すなわち、生活障害への治療も重要で、自立と自律がテーマとなる。

 アルコール依存症者が治療(通院も入院も)を拒否している場合、まず家族がアルコール依存症治療施設で、家族に対する治療プログラムを有している医療機関に出向くことを勧める。家族がアルコール依存症に対する誤解や偏見を捨て、有効な対処の仕方を身につけることで、アルコール依存症者の考えや行動に変化を及ぼすのである。

 さて、筆者がアルコール依存症の治療に懸念を覚えていることがある。1つは、入院中の飲酒は治療意欲に欠けるという理由で、強制退院とするアルコール依存症治療プログラムを有している精神科病院が少なくないこと。飲酒して酩酊して受診したからと診察自体を拒否する精神科病院や診療所があることである。前述したように再飲酒は飲酒問題の再確認という治療上重要なことと筆者は考える。2つ目は、入院回数を制限している精神科病院があることである。アルコール依存症の病理を考えると、再飲酒はあり得ることである。また何十回と精神科病院への入院を繰り返し、現在断酒している人がいるのである。

 最近、動機づけ面接法、認知行動療法などの治療法が紹介され、アルコール依存症に適用している治療施設も多くなっている。しかし、どれも必ず断酒をもたらす特効薬的な治療法ではない。様々な治療的な引き出しは必要であると考えているが、これら新しい治療法を筆者のクリニックでは導入する予定はない。入院を依頼する場合、アルコール依存症治療プログラムを有している精神科病院が望ましい。緊急性があり治療プログラムを有していない精神科病院に入院を依頼する場合、治療プログラムがないからと入院依頼を断られることがある。あまり専門的治療といわないほうが良いこともあるように思える。

 治療的な信頼関係を構築できるか否かが、アルコール依存症に限らず治療上重要で、治療の成否を左右することがある。筆者は飲酒問題を相談にくる家族に、しばしば「あせらず」、「あわてず」、「あきらめず」相談にくることを、かねてより勧めているが、それは治療する側にもいえることである。

3.自助グループについて

 自助グループは、岩田によると「病気や障害などによる生活上の問題をもっているメンバー同士のセルフヘルプを生み出し、推進するために体験と体験的な知識を活用して活動し組織し運営している自立性と継続性を有するボランタリーで主体的なヒューマンサービスの活動体」である。治療者はその活動に一斉関わらないことになっている。なお治療施設のグループは治療グループと呼ばれ、治療者が治療的な関わりをもっている。断酒会とAA(アルコーホリック・アノニマス)が、わが国の代表的なアルコール依存症の自助グループである。断酒会は会長などの役職者がいる組織体である。断酒会活動の基本は「例会出席」とされ、「例会は体験談に始まり、体験談に終わる」とされている。例会に出席し、仲間の体験談に耳を傾け、自分の体験を語ることにより、自分自身をみつめなおすこととなる。断酒会の家族会もある。AAは組織をもたない共同体とされ、アルコール依存症者だけのクローズドミーティングと本人以外の出席も認めるオープンミーティングがある。出席者は本名を名乗る必要はなく、ニックネームを使う。ミーティングで自分の体験を語り、仲間の体験談に耳を傾ける。家族と友人を対象としたアラノンもある。保健所や精神保健福祉センターに問い合わせると断酒会やAAの情報が得られる。 

自助グループへ出席・参加することで、安心や共感が得られ、また先に回復した仲間に希望を見出し、自分の回復のモデルをもつこともある。なお、自助グループではないが、アルコール依存症者によって維持されているアルコール依存症者のための施設がある。MACである。また、断酒会が作業所や就労支援事業所をもっているところもある。

おわりに

 以上、日頃考えていることを含め、アルコール依存症の治療と一般科の連携などについて記述した。本稿が諸先生の診療の一助になれば望外の喜びである。