内科臨床誌メディチ―ナ(医学書院) 2005.9掲載
◆経口摂取されたアルコールは、約20%が胃、約80%が小腸で吸収される。胃の状態(切除の有無、胃の運動、内部の食物など)、アルコールの濃度、アルコールの種類などによって、吸収速度が異なる。胃切除後の飲酒には、ことのほか注意を要する。
◆中等量の飲酒は脳梗塞や虚血性心疾患の予防になるといわれているが、アルコールによる障害の発生に目を向けるべきである。
◆アルコールは中枢神経系に抑制的に作用する。アルコールによる抑制が、脳幹部の呼吸中枢に至ると呼吸停止をもたらす。一気飲みや飲酒の強要は、厳に慎まなくてはいけない。
吸収
エチルアルコール(以下アルコール)は、経口的に飲むかたちで摂取されるのが最も普通の方法であり、呼吸器粘膜や皮膚からの吸収はごく稀である。
アルコールは口腔から直腸に至るすべての消化管から吸収される。経口摂取されたアルコールは、約20%が胃で、約80%は小腸で吸収される。吸収速度は、小腸、特に十二指腸から空腸にかけての腸管からの吸収が最も速く、次いで胃、大腸の順で遅くなり、口腔、食道が最も遅い。空腹時に経口摂取されたアルコールの60~90%は30分以内に、95%は1時間以内に吸収される。したがって、胃の切除を受けた場合、アルコールの吸収はより速くなる。胃切除後の大量飲酒は、アルコールによる様々な障害をより生じやすくさせ、またアルコール依存症を発症した後に胃切除を受け、そして飲酒をすると、アルコール依存症は急速に進行し増悪する。
胃の運動が低下していると、アルコールの吸収は遅くなる。アルコールの濃度によっても吸収速度は異なり、約20%の濃度のアルコールが最もよく吸収される。高濃度のアルコールを摂取すると、胃粘膜に出血・ひらんが生じ、胃粘膜からの吸収は低下する。また、高濃度のアルコールにより、胃の運動低下や、胃幽門輪の緊張はますます遅くなる。
アルコールの吸収速度は、ワイン、ジン、ウィスキー、ビールの順で早い、これはアルコール以外の成分とその量によるものと考えられている。また、炭酸ガスは、胃の胃運動を刺激し、アルコール性飲料の小腸への移行を促進し、吸収を速めると考えられている。
胃内部の食物は、アルコールの胃からの吸収を遅らせ、かつアルコールの小腸への移行も遅らせる。特に、蛋白・糖質・脂肪が適切に混ざった食物(牛乳、乳製品など)がアルコールの吸収を遅らせる。なお、飲酒する前に水を飲むと胃粘膜が洗い流され、アルコールの吸収は速くなる。
空気中のアルコールは、呼吸器粘膜や皮膚から吸収される。したがって、高濃度のアルコールを吸入すると急性アルコール中毒となる可能性がある。
血管への影響
適度のアルコール摂取は、血圧に影響を及ぼさないか、むしろ血圧を下げる作用があるといわれている。しかし、1日36g(ウィスキーシングル約3倍以上、ビールで小ビン3本)のアルコール摂取は、高血圧の危険因子である。また、中等量の飲酒は脳梗塞や虚血性心疾患に予防的に作用するといわれている。しかし、アルコールによる全身的で多臓器的な障害の発生やアルコールによる精神・心理面の影響、さらにアルコール依存症の発症の可能性を考えると、飲酒が脳梗塞や虚血性心疾患の望ましい予防法になるということはできない。
中枢神経系への影響
中枢神経系に対して抑制的に作用する。その結果、酩酊をもたらす。酩酊は知覚機能、運動機能、精神機能に障害を生じさせ、障害の程度は血中濃度に左右される。アルコールは高次脳機能を抑制し、少量の飲酒では大脳前頭葉皮質の機能低下に基づく脱抑制により多幸感、多弁、ほろ酔い気分が生じる。また、頭頂葉、後頭葉、側頭葉の皮質の機能低下により痛覚、視覚、臭覚、味覚などの感覚が鈍麻する。抑制は徐々に下位の中枢神経系へ広がり、大脳辺縁系の抑制によって情動行動の失調や自発性の低下が、小脳の抑制によって運動障害や歩行障害が生じる。そして脳幹部が抑制されると、昏睡状態から呼吸停止、さらに死に至る。一気飲みや飲酒の強要は、厳に慎まなければならないのはいうまでもない。
アルコールの中枢神経系に対する作用は、可逆的で脳細胞に器質的な障害を残さないとされているが、慢性的に大量のアルコール摂取は、大脳、小脳、脳幹部、脊髄、末梢神経への障害を生じ、その多くは不可逆的変化である。また、大量のアルコール摂取に伴うビタミン欠乏状態(摂取不足、吸収障害、消費の増大による)を引き起こし、Wernicke-Korsakoff脳症、ペラグラ脳症などが生じる。
文献
1)奥山啓二:アルコールの吸収および代謝、白倉克之・丸山勝也(編):アルコール医療入門、pp12-18、新興医学出版社、2001
2)石井裕正:アルコール内科学、医学書院、1981
3)飴野清・他:アルコールの腸管よりの吸収―アルコール関連障害とアルコール依存症、日本臨牀712(特別号):11-15、1997
4)高木繁治:血管―アルコール関連障害とアルコール依存症、日本臨牀712(特別号):87-91、1997