令和6年度名古屋市依存症支援者研修会の第2回目が令和7年度1月19日、2月16日の両日、西山クリニックにて開催されました。両日とも日曜日で寒い中でしたが、ご参加頂いた方々、本当にありがとうございました。以下プログラムになります。
≪1日目 令和7年1月19日≫
1)ギャンブル依存症への理解と支援 ~ギャンブル依存症の診断と治療、家族への支援、 グループの進め方~
北海道精神保健協会会長 北仁会旭山病院・札幌こころの診療所 田辺 等先生(医師)
2)弁護士が借金問題に関わるとき~債務整理と受診の促し方、支援者が本人と相談する時~
愛知ひまわり法律事務所 杉本みさ紀先生(弁護士)
3)ギャマノンのついて・家族の体験談 ギャマノン名古屋竹の子グループ えっちゃん、ぴーちゃん
4)西山クリニックの取り組み 西山クリニック 内藤千昭(精神保健福祉士)
5)名古屋市における依存症問題に関する施策について 名古屋市役所健康増進課 林本浩兵先生
田辺先生は、ギャンブル依存症治療に熱心に取り組んでおられる先生です。その先生の貴重なお話が聞けた講演でした。著書も多数著していらっしゃいます。

先生の長年の臨床から、ギャンブル依存症は他の依存症同様に、本人の意思の弱さではなく、病気であること。またインターネットが身近な現代では、誰しもがギャンブル依存症になるリスクも高く、特別ではないこと。ギャンブル依存症者をもつ家族支援が非常に重要であることを話されていました。借金を背負ってまでどうしてギャンブルにのめり込むのか?ということを、脳の機序作用から本人の心理まで、具体的に解説していただきました。他の依存症もですが、話を伺うと、どうしてやめられないのか?ということがよく分かりますし、やめたとしても、本来心の防衛機制である“否認”が形を変えて何度も襲ってきて、理由を付けてギャンブルを再開する、周囲に嘘を重ねてギャンブルを行う仕組みが理解出来たと思います。また、先生は家族支援も大切になさっていて、家族の相談の進め方も丁寧に説明されていました。本人との言い争いや不信感が募り、経済的な不安を抱える家族もギャンブル依存症の被害者です。なかなか相談しにくいこと、どこに相談してよいか分からず、必死の思いで相談にきた家族に対し、まずは今までの対応を労りつつ、支援者側がどのようなことに気を付け、病気であると知ってもらい、問題を外在化する。依存症者本人に今まで家族が肩代わりしてきた問題を考えてもらう必要性についてをお話されていました。先生の分かりやすく具体的なお話は、改めて病気の理解の大切さを実感し、病気に対する偏見の払拭と治療に対する情熱を感じました。
午後は杉本先生の「借金問題に弁護士が関わるとき」と題した講演をして頂きました。杉本先生は、薬物の研修の時も講師を引き受けてくださったので、覚えていらっしゃる方もいるかと思います。

杉本先生は、借金問題の基礎知識から自分の関わったケースまで、とても分かりやすくお話頂きました。とにかく借金というと「支払わなければならない」「どうしていいか分からない」と、目の前のことに焦ったり、パニックになったり、どうしようもできないことと捉えてしまいがちだと思いますが、借金の種類や返済方法など具体的に話していただき、焦らず考えてから動いても良いことも多く、新たな知識を得た方も多いと思います。また、他職種、他機関との連携をして、ギャンブル依存症の方の支援を行っている話も伺いました。他職種がそれぞれの立場からギャンブル依存症を理解すると、連携が取れ、地域で支援する幅が広がる可能性を感じられました。杉本先生の明るくさらっとして、いいことだけを言わない姿勢が素敵だなと思いました。
ギャマノンとは、ギャンブルがやめられない、ギャンブルで知らない間に借金を背負っていたという人を家族に持つ人達の集まりです。そこでは自らの体験を語る、それを聞くというミーティングを行っています。ギャンブル依存症は症状が基本的に可視化されません。家族が気が付いた時には、勝手に貯金、保険を解約されていたり、家を担保にされていたり等、借金を背負っていることがわかり、本人だけでなく、家族自身もすぐに路頭に迷う可能性を抱えています。生活を脅かされながら、繰り返される嘘、借金にどう対処し、家族自身の生活を守りながら、この病気と向き合ってきたのか。ご家族から語られる体験談は、常に辛く身を切られるようなことばかりです。嘘を重ねることがどれだけ家族の生活や安心を奪い脅かすのか。そして、ギャンブル依存症を持つ家族にとっての理解がいかに少ないかを深く考えさせられます。いつも体験談を話してくださるギャマノンの方々に感謝申し上げます。
その後クリニックスタッフより、当クリニックにおけるギャンブル依存症に対する取り組みを紹介させていただきました。ギャンブル依存症を疑い、受診される本人、ご家族は増える一方です。当クリニックとしても今回研修を受けられた方々が、ご自身の職場でギャンブル依存症者に出会った時に、今研修が役立てば幸いです。
最後に名古屋市における依存症施策の説明がありました。名古屋市は地道に依存症に対して取り組んでいます。この取り組みが継続し、拡がっていくことを願うばかりです。
≪2日目 令和7年2月16日≫
1)GAについて・モデルミーティング GAメンバー
2)グループディスカッション 名古屋市仕事暮らし自立サポートセンター大曽根 石上里美先生(精神保健福祉士)
3)西山クリニックDr&スタッフのQ&A(事例の総括込)
西山クリニック院長 西山 仁先生(医師)
2日目は、GAグループの方々に来て頂き、GAについてとモデルミーティングを開催していて頂きました。GAとは、自分のギャンブルの仕方に問題があるのではと悩んでいる人(診断がついている、ついていないは関係なく)達が集まり、自らの体験を語る、それを聞くというミーティングを行います。ギャンブル依存症は、アルコールや薬物と違い、依存物から直接体を壊すことはなく、外見からはより分かりにくい疾患と言えます。見た目で病気と分からない人達が淡々と自分の壮絶な体験を語る姿は、自分や自分の周囲にも同じような人がいるかもしれないと身につまされたと思います。いつもメッセージを運んできてくださるGAの皆様に感謝申し上げます。
午後からは、グループディスカッションを行いました。1つの仮想事例を通して、「自分ならこうする」「自分ならこのように支援を考える」「同様のことで大変な体験をした」等々、日頃の支援を振り返ってもらい、大変さを分かちあったり、困難さを感じた時にどうしているかを聞いたりして、ギャンブル依存症の方への理解や支援を深める機会になりました。前回アルコール依存症の研修時もAAの方々にグループに入って頂き、好評でしたので、今回もGAの方々にもご協力頂きました。直に疑問をぶつけたり、どういった関わり方が本人のためになるかを聞けた貴重な機会だったと思います。
最後は今研修恒例の西山先生へのQ&Aでした。最近低年齢化しているゲーム依存についてのご質問が多かったと思います。ゲームは身近で対象年齢も幅広く、のめり込んで課金をすることで、気が付けば返済できない額の借金になってしまうという話は身近になってきています。皆さんにとっての関心事項なのだと実感しました。